誰かが呟いた。聞いたことがあるような、どこか耳に引っ掛かる声だ。
「あのさ、壊れた俺の玩具直して欲しいんだけど・・・」
目の前に差し出された充電式でスイッチを入れれば走るトラックの玩具、遊星はその小さな物体を暫く見つめた後手にとり目の前の男子の顔を見た。オレンジ色の髪の毛を持ちどこか気の強そうな容貌をしている―――どうも、苦手なタイプだった。
周りからは何か珍妙なものを見るかのようにチクチクと視線が痛かった。
何も言わない、どこか腑に落ちない顔をしていたのだろうか。一瞬目を数回瞬きをした後また口を開く。
「いつも壊れた玩具が次の日になったら直ってるの、知ってるんだぜ。」
それを聞いて――だから俺に頼んだのか、と納得した。
「で、それ直せそうかな?」
「…只の電池切れ」
「え?電池?」
間の抜けた声がした。
「そう、電池。」
俺は応えた。
「これ電池で動いてたのか!でも見るだけで分かるなんて、お前すげえよ!」
「……」
「ありがとうな!」
何とも妙な気分になる――特にこれといってしていないのに、これ程他人から感謝されるのは初めてだった。
回りからの視線は自然と俺からオレンジ頭の男子に移り、わっと群がる。それを見て、いつもよく見る窓の外に視線を移す。今日も何もなさそうだった。
どうも居心地が悪いのでその場からソッと離れる。机の上に置いてあったマーサが焼いたであろう焼き立てのクッキーを一口口の中に放り込み、かけてあった手袋を嵌めた。
「不動遊星!見ろ、動いたぜ!」
呼ばれたので後ろを振り返り見ると動かなかったトラックは元気よく走りまわっていた。それを見てふっと笑う、それを見て気をよくしたのか
「遊星も一緒に遊ぼうぜ」
「………遊ぶ」
どう反応すればいいのか分からなかった。俺が、コイツと、遊ぶ、しかしどうやって
「駄目だクロウ。今からコイツは俺に用がある!」
「ジャック!」
目の前にいる――――クロウと言われた男子は意外そうに声を張り上げた。
そして一人、また一人と、周りにいるギャラリーが少しずつ増えだす。
なんせジャックは何をしても目立つ男だったので、横にいるだけでも何処か億劫な気分になってしまうのだった。クロウとやらは俺がジャックに対して何か言い返すのでは無いかと少し期待の眼差しで俺を見つめて来たが、何を言えばいいのかも分からずそのまま流れに流される羽目になってしまった。
やはり、何を考えているのか分からない物と接するということは本当に難しい。
機械なら、感情もない、心もない、ただ思うように動いてくれて楽なのに。
ジャックはもの凄い形相をしたまま、今からでも顔から火が出そうなくらい真っ赤になり俺の手を掴みそのままリビングを出て廊下の角まで半ば強制的に歩かされる。
そして止まった後、一言釘を刺された
「お前は、俺以外の奴としゃべってはいけないんだ」
最初なぜそんなことを言い出すのかよく分からなかった。だがここで何か言えばどうも火に油を注ぐような気がしてならなかったので、黙ったままジャックを見つめた。
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